ロジクールが本気で作った「気持ちいい」キーボード
2026年2月に発売されたAlto Keys K98Mは、ロジクールとしては初めてガスケットマウント構造を採用したメカニカルキーボードだ。これまでロジクールのキーボードといえば「仕事道具として堅実」というイメージが強かったが、K98Mは明らかに打鍵体験の「気持ちよさ」に振り切っている。
独自開発のUniCushionガスケットとMarble Switchの組み合わせが生み出す「コトコト」という打鍵音は、メカニカルキーボード特有の「カチャカチャ」とは全く異なる。指を置いた瞬間のしっとり感、押し込んだときの柔らかな沈み込み、そして底打ちしたときの控えめで上品な音。「長文を打ちたくなるキーボード」という評価が多いのも頷ける。
打鍵感:「コトコト」の正体
Marble Switchはリニアタイプで、押下荷重は40gとかなり軽め。メカニカルキーボードの中でも反発力が弱い部類に入るので、長時間のタイピングでも指が疲れにくい。
ガスケットマウントのおかげで、打鍵時の振動がケース全体に伝わらず、キーひとつひとつが独立して沈み込む感覚がある。一般的なメカニカルキーボードの「プレートに直打ち」な硬さとは対照的な、ふわっとした柔らかさだ。
ただし注意点として、ロジクールが宣伝する「コトコト」音は、カスタムキーボード界隈でいうWOBKEY Rainy 75のような深みのある「コトッ」とは少し方向性が違う。やや高めの音で、「カタカタ」に近いという声もある。とはいえ、一般的なメカニカルキーボードと比べれば十分に静かで上品な音だ。
実際、ロジクールのメカニカルキーボードの中でも打鍵体験の完成度はトップクラスで、打鍵音の抑えと心地よさを高い次元で両立している。仕事用としての安定性は高く評価されており、「コトコト系だけど実用的」という絶妙なバランスが持ち味だ。
静音性:オフィスで使えるか?
メカニカルキーボードをオフィスに持ち込みたいけど音が気になる、という人は多いだろう。K98Mはその悩みにかなり寄り添ってくれる。
ガスケットマウント構造とリニアスイッチの組み合わせにより、一般的なメカニカルキーボードの「カチカチ」「カシャカシャ」という派手な音は出ない。隣のデスクの人が気づくレベルではあるが、不快感を与えるほどではないだろう。静音メンブレンキーボードの静かさを期待するとがっかりするが、「メカニカルとしては相当静か」というのが正確な評価だ。
98%レイアウト:便利だが慣れが必要
テンキー付きでありながら401mmという横幅は、フルサイズキーボードよりかなりコンパクト。マウスとの距離が近くなるので、肩の開きが減って姿勢は楽になる。
ただし、このコンパクトさの代償として右Shiftキーが1Uサイズに縮小されている。右Shiftを押したつもりが上矢印キーを押してしまう誤操作が頻発するという声が多い。2〜3週間で慣れるという意見もあるが、最初の1週間はストレスを感じるかもしれない。
また矢印キーがテンキーと密接しているため、矢印キーを多用する人にとっては窮屈に感じる可能性がある。
接続と互換性:一つ大きな注意点
Bluetooth LEとLogi Bolt(2.4GHz)の2系統で、最大3台のデバイスを切り替えて使える。切り替え自体はスムーズで、仕事用PCとMacBookとiPadを行き来するような使い方に向いている。
ただし重要な注意点がある。USB-Cで充電はできるが有線キーボードとしては認識されない。つまりBIOSに入るとき、デュアルブートのOS選択画面、あるいはBitLockerの回復画面などでは使えない。PC1台運用でも、万が一のトラブル時に備えて有線キーボードは別途持っておいた方がいい。
ホットスワップ:将来の拡張性
Cherry MX互換の3pinおよび5pinスイッチに対応したホットスワップソケットを搭載。ロジクール純正のMarble Switchに不満があれば、好みのスイッチに交換できる。はんだ付け不要で抜き差しするだけなので、カスタムキーボード初心者でも安心だ。
PBTキーキャップも、ABS素材のようにテカらず、長期間使っても質感が維持される。この価格帯でPBT採用は良心的だ。
なお、カスタマイズの自由度はゲーミングキーボードに比べると控えめだが、Logi Options+によるSmart Actionsとの組み合わせは生産性重視のユーザーにとってむしろ理想的だ。ゴリゴリのキーマッピングよりも、直感的に使えるソフトウェアで効率化したい人にこそ向いている。
バッテリー:実用上ほぼ不満なし
バックライトオフで最大12ヶ月という公称値は、デスクキーボードとしては十分すぎる。バックライトを常時点灯にすると約2週間程度まで短くなるが、デスク用途ならバックライトは必要なときだけ点灯するのが現実的だろう。USB-C充電なのでケーブルの使い回しも楽だ。
気になった点まとめ
- 右Shiftキーの小ささは慣れるまでストレス
- 有線モード非対応はBIOS操作時に困る
- Fキー行しかリマッピングできないカスタマイズの制約
- 約1,100gの重量はデスク据え置き前提
- バックライト常時点灯だとバッテリーが2週間程度
こんな人におすすめ
- メカニカルキーボードに興味があるけど何を買えばいいか分からない人
- オフィスで使える静かめのメカニカルキーボードを探している人
- テンキーは欲しいけどフルサイズは大きすぎると感じている人
- ロジクールのエコシステム(Logi Options+、Logi Bolt)に既に馴染んでいる人
- 将来的にスイッチ交換などのカスタマイズにも挑戦してみたい人
逆に、VIAやQMKでゴリゴリにカスタマイズしたい人、ゲーミング用途がメインの人、できるだけ軽いキーボードが欲しい人には向かない。
まとめ
Alto Keys K98Mは、ロジクールが「気持ちいい打鍵感」と「仕事での実用性」を両立させようとした意欲作だ。ガスケットマウント、ホットスワップ、PBTキーキャップと、カスタムキーボード界隈では当たり前の仕様を大手メーカーの安心感で提供している点が最大の価値だろう。
右Shiftキーの小ささや有線非対応など、細かい不満はある。だが「メカニカルキーボードの世界への入口」としては、かなり優秀な一台だ。メンブレンからの乗り換え先としては文句なしの選択肢で、打鍵感の気持ちよさは日々のタイピングのモチベーションを確実に上げてくれる。ロジクールの手厚いサポートとソフトウェアの完成度も安心材料になる。
一方、カスタムキーボード経験者には物足りない面もある。VIA対応ボードやエンスージアスト向けの深い打鍵感を知ってしまっている人にとっては、カスタマイズの幅も音の奥行きもやや控えめに感じるだろう。
とはいえ、「予算内の終着点」として考えれば、これ以上を求めるならカスタムキーボードの沼に足を踏み入れるしかない、という絶妙なラインに位置している。静音性・安定性・耐久性を備えた仕事用メカニカルキーボードとしての完成度は高く、万人向けの「最初の1台」として自信を持っておすすめできるキーボードだ。
スペック
| メーカー | Logicool(Logitech) |
|---|---|
| 型番 | Alto Keys K98M(K98MGR / K98MOW) |
| キースイッチ | Marble Switch(リニア / 押下荷重40g / アクチュエーション1.9mm / ストローク3.2mm) |
| マウント構造 | UniCushionガスケットマウント |
| キー数 | 102キー(日本語配列)/ 98キー(US配列) |
| 接続 | Bluetooth LE / Logi Bolt USBレシーバー(2.4GHz) |
| バッテリー | 最大12ヶ月(バックライトオフ時) |
| 充電 | USB Type-C |
| キーキャップ | PBT素材 |
| ホットスワップ | 対応(Cherry MX互換 3pin/5pin) |
| サイズ | 401 × 147 × 39.6mm |
| 重量 | 約1,100g |
| 対応OS | Windows / macOS / ChromeOS / iPadOS |
| カラー | グラファイト / オフホワイト |
| 価格帯 | 約16,700〜18,590円 |
良かった点
- ガスケットマウント構造による「コトコト」という心地よい打鍵感が癖になる
- メカニカルキーボードとしては静音性が高く、オフィスでも使いやすい
- ホットスワップ対応でスイッチ交換が可能、PBTキーキャップで耐久性も高い
- バックライトオフで最大12ヶ月のバッテリー持ちは驚異的
- Bluetooth+Logi Boltの2系統接続、最大3台のデバイス切り替えに対応
気になった点
- 98%レイアウトのため右Shiftキーが小さく、矢印キーとの誤押下が起きやすい
- 有線接続では認識されず、BIOS操作やデュアルブート選択画面で使用不可
- カスタマイズはFキー行のみで、VIA対応キーボードほどの自由度はない
- 約18,600円という価格はメカニカルキーボード初心者には少しハードルが高い

